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映画「ヒトラーの忘れもの」感想/積み上げた地雷は誰の罪を贖うのか

この世界の片隅に」の上映時間を検索していたはずだったんですが、「ヒトラーの忘れもの」というタイトルが気になって調べて見たら、興味深い内容だったので突発的に見て来ました。

アカデミー賞の外国語映画部門でノミネートされているみたいです。わー、受賞してほしい……! ちょっとは人に勧めやすくなる……!

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あらすじ

ナチスドイツ占領下のデンマーク、連合軍の上陸作戦を防ぐため、ドイツ軍によって海岸線に無数の地雷が埋められました。
ドイツ降伏後、膨大な地雷の撤去のために駆り出されたのは、捕虜のドイツ兵-大戦末期に従軍させられた少年兵-たちだったという事実に基づく話。

捕虜への虐待は条約によって禁止されているのですが、デンマークナチスドイツの交戦国ではなく、保護国だったことから条約の適応外とされたり、自発的に降伏した兵士のみを捕虜とみなすという抜け穴的解釈で、デンマークだけでなく、ノルウェーやフランスなどでも地雷撤去は行われていたようです。 イギリス軍が主導的な役割を担っていたことが作中でも度々表現されています。

戦後、ナチス絡みで親世代のツケを子供が払わされたケースでいうと、ノルウェーにおけるレーベンスボルン計画後のドイツ人ハーフの差別問題が思い浮かびますが、その何倍も惨たらしい話です。 レーベンスボルン - Wikipedia

ヒトラーの忘れもの」というのは邦題で、英題はland of mineで地雷(Land Mine)と私の国をかけたミーニングが非常にいけてます。現代はUnder Sandetで、デンマーク語はわかりませんが、砂の下みたいな意味でしょうか?

ヒトラーは全然関係ないのですが、ヒトラーの訴求力は日本では結構な影響力を持っていると思うので(私もタイトルに惹かれて調べた口です)必要悪というところでしょうか……負の遺産である地雷を忘れものに例える表現なんかは詩的でいいなと思います。

ドイツ人を憎むデンマーク兵のラスムスン軍曹の元で、海岸の地雷をすべて撤去すれば祖国に帰れると聞かされた少年兵達。飢えや病気に苦しみながら、爆発で一人、また一人と数を減らしていく中で、ラスムスンと少年の間には……

以下ネタバレ感想

十数年前、「西部戦線異状なし」の原作を読んだ後と、そっくりそのまま同じ気分になりました。 腹の底にずーんと重いものが残って食欲がなくなりました。

ストーリーをドラマチックに整えるより、淡々と事実を積み重ねていく方が、映画より日常の私たちの境遇により近いので、惨さが身近に感じられるのかもしれません。
西部戦線の1930年モノクロ映画版はその辺り、諦観的な原作に比べると感傷的な仕上がりでちょっと趣が異なります。1979年のカラー版の方が感触としては原作に近いです。どちらもそれぞれいいのですが)
その辺り、コロンバインの銃乱射事件をモチーフにしつつも、学生の何気ない日常を淡々と映していたエレファントなんかにもちょっと通じるものがありました。
この映画でも少年兵には素人に近い無名な俳優たちをキャスティングしたそうなので、その辺りも共通項でしょうか(エレファントは監督のこだわりでほとんどが素人起用でした)

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関係ないんですが、エレファントってパッケージ詐欺だといつも思います。ハートフルな映画じゃないかと予想して裏面も読まずにレンタルした思い出……いい映画なのでいいですが。

この映画の中で、特別なことは何も起こりません。
ただただ、うつくしい海岸には不似合いな地雷を、土と泥で汚れた少年たちが処理していく。 ある者は両手が吹き飛び、ある者は遺体すら見つからず、ある者は仲間の後を追うように地雷原をまっすぐ歩き……

覚悟をして見にきているとはいえ、地雷撤去の一場面一場面はらはらと見守ることになり「ああ、大丈夫だった……」と安心した直後に、爆音に身を強張らせることになり、暖房の効いてる映画館の中なのに常に寒気がしていました。

14人の少年たちの中で、特に印象深いのは双子の兄弟、ヴェルナーとエルンストでした。 気弱なエルンストをヴェルナーが庇うような関係性でしたが、兄のヴェルナーが目の前で爆発してから、塞ぎがちになったエルンスト。
地雷原に迷い込んだ民間人の女児を助けたその足で、引き返さずに地雷原を歩き、ヴェルナーの後を追うシーンと言ったら……。
ヴェルナーの死後、明らかに様子がおかしくなっている姿を見て、この子も死んでしまうんだろうと薄々予想らしつつも、生きていて欲しいという希望も捨てきれず、見守ることになるのでいっそうやるせないです。 カメラワークも、誰の視点でもない真横からの撮影で、自分が映画の外にいることを意識させられました。

この女児、映画序盤にも登場していて、その時に遊んであげたのが兄のヴェルナーでした(パンをくすねる目的があったとはいえ)。
女児はエルンストのことをヴェルナーだと思っていたので、警戒されずに近づけたのですよね。

他に印象深いのは、ラスムスン軍曹と少年たちの絆が深まり始めたころの、つかの間の休息シーン。 海辺を走り抜ける少年たちを空撮で撮った開放的なシーンは、白と青の美しさが映えるこの映画の中でも、特にうつくしいシーンではないでしょうか。 他の少年たちとラスムスンがサッカーやフラッグレースに興じるなか、ヴェルナーだけが一人離れた草原でネズミを捕まえているシーンも象徴的です。

基本的に淡い青と白、くすんだ茶色で画面が構成されてるので、爆発の赤がまあ、よく映えてそれも時折たまらなかったです。
西洋に賽の河原のような概念はないと思いますが、少年たちが処理して積み上げた地雷と、前時代の贖罪が結びついているように思えてなりませんでした。
別の視点で見るとキリスト教的な贖罪が血と肉によって行われるものとすると、少年たちの死がそれを象徴するものなのかなと思ったりもします。

さて、終盤、積み上げていた処理済みの地雷が暴発し、6人が一挙に欠けて14人が4人になったところで、ラスムスンは少年たちを国に帰します。
しかし、別の場所での地雷撤去に少年たちが再び駆り出されたことを知った軍曹は、軍規に逆らい部下に手を回し4人をドイツ国境近くまで連れ出して逃げるように言います。

4人を見送るラスムスン軍曹の姿の後、史実に基づいたテロップが流れ、2000人以上のドイツ人捕虜が地雷撤去に従事し、その半数が死亡または重傷を負った、その多くは少年兵であったと伝えて、映画は幕を閉じます。

軍規に逆らったラスムスンのその後であるとか、少年たちが無事に祖国に帰ることができるのかと考えると、一概にハッピーエンドとは言えませんが、とは言え、最初は少年兵は全員亡くなる予定だったそうです。 検討の末にこのエンドが選ばれたそうで、確かに画面の外の彼らの幸せを祈れる方が幸せかもしれません。

この辺り、西部戦線異状なしは主要登場人物が全員死亡または負傷退場ふる作品ですが、こちらは舞台が第一次大戦ということもあって、後に第二次大戦が起きると知っている人間からすれば、あながちバッドエンドとも言えないように思えるのが不思議なところ。 原作が書かれたのは1929年で第二次大戦が起こる前なので、そういう意味はなかったんでしょうが、1900年前後に生まれた青少年は、アメリカの「失われた世代」をはじめとして、生き延びたにせよ深い空虚を抱えた人も多いわけで、戦争の罪深さを感じます。

見た直後は精神的消耗が激しく、これは2回は見れない映画だなと思ったのですが、パンフレットを読んでみると、丁寧な作り込みもよくわかり、顔と名前が一致しない少年も多かったので、もう1回見に行かねばという使命感に駆られました。ので近々見に行きます。

ところで、西部戦線異状なしのリメイク映画、最初に話出たの2010年だったのにまた延期してますね……2018年……本当に公開されるんでしょうかこれ……「私待つわ、いつまでも待つわ」です。日本で一番楽しみにしてるとまでは言いませんが2桁には入ると思います……。