そとでよ - 元ひきこもりの気ままな暮らし

元ひきこもりの気ままな生活。ひきこもりをしていましたが就職しました。

「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場

「ヒトラーの忘れもの」再上映中の飯田橋ギンレイホールでの二本立てのもう一本が今作だったので、ヒトラーの忘れもの5回目鑑賞の前に見てきました。

映画のあらすじ

イスラム圏のテロリストの妻で国際指名手配犯の英国人女性と、テロに傾倒した米国人と英国人男性の3人を巡って、米国と英国が行なっていた共同作戦は、当初は国際指名手配犯の英国人女性の身柄を確保するためのものだったが、テロリスト宅から自爆テロ用の爆薬が発見されたことから、自爆テロの事前阻止に作戦が変更される。

しかし、当該住宅に攻撃を行えば付近の住民の犠牲も避けがたい。そして、付近にはパンを売る少女の姿が……人混みで行われるテロ行為であれば80人が犠牲になる見込みだが、そのために少女を犠牲にしてもかまわないのか?

数年間追い続けたテロリストを逃すことを恐れ攻撃を急ぐ軍部と、中立国での攻撃行為などを国際的な判断を巡り、責任を持ちたがらない英国米国の上層部、そして、実際にミサイルを撃ち込むドローンを操作する航空兵士の立場から、テロの阻止が多様に描かれた作品です。

感想

イスラム圏が人命を犠牲に自爆テロに出る一方、米国側がパイロットの安全が完全に保障された無人戦闘機で攻撃をすることの対称性はしばしば議論を呼びます。

強者と弱者に見られる戦力の不均衡はしばしば弱者の側にヒロイックな感情移入をもたせます。古くは源氏の義経に対する判官贔屓であり、太平洋戦争における特攻兵にも同様の傾向が見られます。

しかし、先例はあくまで人対人で、犠牲者の数の違いはあれど、等しく人命という犠牲を払ってきました。しかし、先進国に比べれば貧しく装備も劣悪で自爆テロしか手段がないとも言えるイスラム圏に対して、人命の犠牲がない無人機を投入することは経済格差を想起させ嫌悪感が湧き上がるのでしょうり

しかし、この映画を観れば世界一安全な戦場の兵士が決して安楽な立場にはないことが理解できると思います。

軍部と民間の温度差

結局のところ、攻撃作戦は実行され、少女を巻き込むまいと払われた事前努力、また実行にあたっても極力周辺の犠牲が少ない場所にミサイルが打ち込まれたにも関わらず、少女は犠牲になるわけです。

少女を巻き込むことに最後まで反対していた英国側の女性政治家は、作戦決行を支持した軍部の中将を「安全」な場所から悲劇を巻き起こしたことを非難しますが、中将は自爆テロ現場で多くの遺体が散乱していた現場の経験を語り、作戦を実行しなければさらなる悲劇が発生したことを説き、「兵士が犠牲を知らないなどとは言わないことだ」と実際の戦場を知らない政治家を窘めます。

目に見えない未来の80人の犠牲のために、見えている少女1人を犠牲にすることができるのは、過去の中将や大佐の経験に基づくものですが、戦争の実際を知らなければ、実際にそれを理解することは難しいでしょう。

配役バランスの絶妙さです。

作中で攻撃作戦の決行が困難視され、綿密に検討されたのは、巻き込まれる可能性が高かったのが「か弱い少女」だったからです。

先述の女性政治家が少女を守ることを主張し、ともすればジェンダー的に「女性だから」という違和感をもたらしかねないのですが、一方で攻撃を主張する英国側の大佐も女性なのでその点が気にならないように配慮されています。 米国側でも女性政治家が作戦の決行支持をテレビ電話を通じて訴える一方でら航空兵の助手を務める女性兵士配慮少女の犠牲に涙を流すなど、物語を多面的に公平に描こうとしているのがよく伝わります。

人物描写の巧みさ

犠牲になる少女については、オープニングで父が作ったフラフープで無邪気に遊ぶ姿や、母が焼いたパンを市場で売りに行くシーン、算数を勉強しているシーンなどが丁寧に描かれています。 少女の父は進歩的な人物のようですが、少女が過激派を刺激しないように、算数のノートを隠したり、過激派の前で遊ぶことを咎めたり、気を配って暮らしています。

一方で作戦実行側に対しても、中将が孫娘に送るおもちゃを検討していたり、女性大佐が出勤前に夫の隣で寝ている描写があったり、ドローンを操作する航空兵が女性兵士と軽く話をしたりといったシーンで、人間味を演出しています。

オープニングの時点で、少女が巻き込まれることは予見していましたが、過激派の兵士が負傷した少女を病院に運ぶために、軍用車の武器を取り外して少女と少女の父を乗せてくれたりと、過激派側にも情はあることを描きながら、病院で少女の死亡が確認され、父親が嘆き悲しむ様子まで映すのがこの映画の公平さかもしれません。

エンディングがオープニングの少女がフラフープで無邪気に遊ぶシーンの別アングルだったりで、考えさせられる映画でした。