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そとでよ - 元ひきこもりのブログ

元ひきこもりのあれこれ。一応就職決まりました。

『カムパネルラ』山田正紀読了

カムパネルラ (創元日本SF叢書)

カムパネルラ (創元日本SF叢書)

表紙の雰囲気とタイトル、帯のSFの文字に惹かれて手に取りました。カムパネルラは「銀河鉄道の夜」のカムパネルラのことです。

予備知識として、本の中でも解説されているのですが、「銀河鉄道の夜」は宮沢賢治の死の直前まで改稿が重ねられ、死後に編纂し刊行された作品です。 現在、広く知られているのは第四次稿ですが、ジョバンニの身の上が描写された第1〜3章が追加されている。ブルカニロ博士という登場人物が姿を消している、結末が異なるなど、第三次稿から大幅に改稿されているんだそうです。

ところが、この作中世界では「銀河鉄道の夜」は第四次稿が存在せず、第三次稿が最終稿とされています。

それを踏まえてのあらすじ

メディア管理庁、通称メディ管では、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」が最大の推奨作品とされており、青少年の思想統制のために利用されている。 「銀河鉄道の夜」に幻の第四稿が存在すると主張してきた主人公の母は、メディ管の影響により衰弱して亡くなる。宮沢賢治の所縁の地に散骨してほしいとの母の遺言に従い、主人公は岩手を訪れるが、そこは昭和8年9月、宮沢賢治の亡くなる直前で、主人公は何故か町の人々からジョバンニと呼ばれる。 賢治の生家を訪ねた主人公は賢治が昭和3年に亡くなっていると告げられ、さらには早世した賢治の妹トシが生きながらえ、さそりという名の娘までいることに衝撃を受ける。 さらにその世界では「銀河鉄道の夜」の第四次稿が私家版として流布しており、カムパネルラや風野又三郎など賢治世界の登場人物がざしき童子(ぼっこ)としてしばしば現れるのだという……

以下感想

僕はもうあのさそりのようにほんとうにみんなの幸のためならば僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない

私も母が宮沢賢治のファンで、子供の頃からアニメの銀河鉄道の夜を見たりしていたので、なんとなく思い入れは深いのですが、詩集をさらっと読んだくらいで賢治作品にはそれほど触れてきませんでした。

この猫のイメージが強く、作中でジョバンニとカムパネルラを人間で想像するのが難しかったですという余談。

銀河鉄道の夜」に含まれる自己犠牲精神と特攻の親和性及び軍部との関連性については、今まで目を向けたことのなかった部分だったので、戦中どのように賢治作品が扱われたのか、実際のところはわかりませんが、その点はとても面白く読めました。

賢治と軍部について検索してみたらこんな記事も見つけました宮沢賢治が終生会員だった国柱会とは何か? - 後藤和弘のブログ なかなか興味深いです。

ある小説で芸術家について、有名でない画家を死後評価する方が、新たな作品が生み出されることもなく、作品の希少性も高まるから画商としては都合がいいというような説を見たのですが、ニーチェの妹が(ニーチェ自身は反ユダヤ主義とは対極にいたにもかかわらず)兄の死後、著作を改竄しナチスに都合のいい思想を提供した様に、文筆家についても死人に口なしという意味で都合がいい部分があるのではないかと思います。

実際、教科書に出てくる詩人や小説家が、生前どうだったかというと、聖人君子とは程遠かったりしますし。漫画家でいうと手塚治虫の神格化がありますけど、実は作品かなり過激ですし……MWとかすごいです……。

MW(ムウ) (1) (小学館文庫)

MW(ムウ) (1) (小学館文庫)

作中世界では第三次稿が正統とされているので 、主人公の語る「銀河鉄道の夜」も第三次稿がベースになっているのですが、作中でも引用はあるものの、どうにも気になってしまったので、読んでいる途中に青空文庫で探して読んできました。

第四次稿ベース

第三次稿ベース

風野又三郎も登場するので賢治作品に詳しい方ならより楽しめるのかもしれません。「風野又三郎」も大幅な改稿が図られた作品なんですね。

ただ物語の展開が唐突というか、主人公が論拠に乏しい仮説から結論を出し、大抵はその主人公の直感が正しいこととして、話が進んでいくので、いまいちついていけないまま読んでました。 物語の途中でタイムスリップではなく、バーチャル体験的な仮想システムの中での出来事ということが明かされるので、夢のような脈絡のなさは描写として狙ってる部分もあるのかもしれませんが。

賢治の死因は、体調の悪い中、急に押しかけた客人と長く話し込んだことで、その客人が実はタイムスリップ(厳密にいうとタイムスリップではないですが……)した主人公であることはかなり序盤から予想はついていたんですが、そこに至るまでの過程の方がメインパートだと思うのですが、いまいち主人公に感情移入できないまま、話が終わってしまった感じです。

特攻に通じる自己犠牲精神を尊ぶ、戦前日本のような思想統制が行われている雰囲気なのですが、アバターがわからない人はジェームズ・キャメロンの映画を見てほしいという文があったり、キング・コングのリメイク版が公開されていたり、現実世界とそう変わらない日米関係が築かれている風であり(少なくとも検閲はなさそう)、その点もよく飲み込めなかったです。 キングコングのリメイク版を劇場で主人公が見ていることから、作中世界は2005年と思われますが、前述のアバターは2009年公開ですし。これもバーチャル世界的な歪なのかもしれませんが、なんだか気になってしまいました。

と、長々と書いてきてあれなんですが、私はSFだと「どうしてこのような世界になったのか?」というようなバックグラウンドの描写に興味があり、マージナルとか銀河英雄伝説とかそのあたりの歴史がちゃんと設定されているような作品が好きなので、最終兵器彼女読んだ時、日本はどこと戦っているんだ?とか、なぜ少女がいきなり最終兵器なのか?とか、何で世界は滅びたんだ?とか、作品の芯の部分は明らかにそこじゃないってところが気になってしまうんですよね。最終兵器彼女好きなんですけど。

銀河英雄伝説 文庫 全10巻 完結セット (創元SF文庫)

銀河英雄伝説 文庫 全10巻 完結セット (創元SF文庫)

構造の複雑さという点で、インセプションに近い感じもありました。

宮沢賢治世界と深く結びついた作品世界は魅力的な部分だったので、アニメなどの映像作品で見たい作品だなぁと思いました。以前の猫のアニメか、メトロポリスみたいなテイストのちょっとマイナーテイストな感じで。BGMはピアノ協奏曲第1番蠍火で見たいです。

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